仙台高等裁判所 平成7年(ラ)119号 決定 1995年11月17日
抗告人 松山忠文
相手方 鈴木美子
事件本人 松山桃子
主文
原審判を取り消す。
本件親権者変更の申立を却下する。
事実及び理由
1 本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
2 一件記録によれば、抗告人と相手方の婚姻関係破綻の原因、その間の離婚調停の内容、事件本人が抗告人に引き取られるに至った経緯、その後の事件本人の養育状況、抗告人・相手方双方の居住環境、家族関係等は、原審判の理由1の(1)ないし(7)記載のとおりであると認められる。
3 そこで検討するに、本件離婚調停において、事件本人の親権者が抗告人と指定され、事件本人が抗告人に引き渡されるに至った経緯は、上記2のとおりであり、相手方もその時点では事件本人の親権者を抗告人と指定することを納得し、了承していたものであり、この調停における合意が相手方の真意に反するものであったとか、強制に基づくものであった等の事情は見当たらない。なお、上記2の認定事実からすれば、相手方と抗告人双方のいずれも、親権者としての適格性について特に問題とすべき点はないし、事件本人に対する愛情の度合い、双方本人及びその両親の監護の意思及び能力、家庭環境、居住環境等について、特に大きな差異はなかったのであるから、本件で事件本人の親権者を抗告人とすることを合意したことが子の福祉を害するとか、その健全な成長を妨げるといえないことも明らかである。
また、その後の事件本人の養育状況は、原審判の理由1の(3)、(6)記載のとおりであり、抗告人の両親らにおいて、多少事件本人の扱いに苦慮している面も見受けられるものの、現状において、子供の養育上特に問題となる点や、不都合と思われる点は窺われないし、抗告人らが監護の熱意や努力に欠ける面があるとも認め難く、事件本人は、抗告人の下でそれなりに安定した生活を送っているのであるから、本件で、調停で定められた親権者を抗告人から相手方に変更すべき事由はないというべきである。
もっとも、事件本人が未だ3歳であって、一般的には母親の監護養育に馴染む年齢であることや、抗告人と相手方の職業、勤務時間等を比較した場合に、相手方の方が事件本人とより多く接する時間を持つことができると思われることなど、相手方を親権者とした方が事件本人の養育監護の上でより適切と思われる事情もないではないが、他方、事件本人は抗告人のもとに引き取られてのち、抗告人及びその両親の養育監護の下でそれなりに安定した生活を送っているのであるから、それを短期間で覆し、新たな監護環境に移すことがその心身に好ましくない影響を及ぼすことは明らかであり、これらを総合的に考慮すれば、現時点において、事件本人の親権者を抗告人から相手方に変更することが必ずしもその健全な成長を図る上で有益であるとはいえないと考えられる。したがって、この点も上記の判断を左右するものではない。
4 よって、原審判を取消し、本件親権者変更の申立を却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小林啓二 裁判官 及川憲夫 小島浩)
(別紙)
抗告の趣旨
山形家庭裁判所平成7年(家)第192号親権者変更申立の事件本人の親権者を相手方から申立人に変更するとの審判は不服である。よつて之を取消し本件を山形家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めます。
抗告の理由
(1) 審判は「母性優先の原理」といつているがそんな原理は法律にはない。
「男は仕事女は家庭で子育て」という古い発想であり現在の男女平等社会に反する。憲法第24条2項「・・・・・・離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」
家事審判法第1条「この法律は個人の尊厳と面性の本質的平等を基本として・・・・・・」に違反する審判である。審判の考え方は「3才の幼児には母親が重要であるが、父親は重要でない」というものであり、男女差別の不当な審判である。
(2) 相手方は「離婚を認めてもらうために親権を渡したが本心から渡したのでない。だから自分に親権を渡せ」といつているが、これは自分勝手で一方的な言分である。たとえば「離婚を認めてもらうために家を渡したが、本心から渡したのではない。だから家を返せ」というのと同じであり世の中では通用しない理屈である。もし「本心から渡したのでないから返せというのであれば抗告人が渡した金50萬円も返すべきだし離婚も撤回すべきだ。
(3) 離婚の調停は、調停委員や調査官の慎重な調査を経たうえで成立した。
その中で親権者を抗告人にすることにしたのである。
このようにして定められた親権者をそのすぐ後に変更を求めるのは裁判官により決められた内容を否定するものであり許されない。
仮に変更を認めるとしても、それは調停成立後に急に状況が変り
たとえば、抗告人が事故に会つて事件本人を育てられなくなつたと言うような、特別の事情の変化があつた場合とかに限られるべきである。
実際には、抗告人は事件本人を引き取つてから今日まで変わらず両親の援助を受けながら事件本人を育てており状況の変化はない。
両親(特に父)も健康であり、負担にもなつてないし抗告人は事件本人引取後は両親宅で生活を共にしている(添付診断書、特別送達郵便を参照)
抗告人が勤務に出る平日は、事実上両親が事件本人の世話をしているが、これは相手方についても平日は勤務に出るのであるから同様のことである。
以上